風邪のひきはじめに効く漢方——葛根湯・麻黄湯・桂枝湯・銀翘散

「風邪をひいたら 葛根湯 🛒」——この常識、実は半分しか当たっていません。漢方の風邪薬は、体質(実証か虚証か)と病邪の性質(寒か熱か)、そして発症からの時間によって、まったく違う処方を使い分けます。間違えれば効かないどころか、汗をかきすぎて消耗したり、動悸や血圧上昇を招いたりすることもあります。

本記事では、風邪のひきはじめ24〜48時間に使われる代表的な漢方処方——葛根湯・麻黄湯・桂枝湯・小青竜湯・銀翘散——の使い分けを、証(しょう)の判定ポイントとともに整理します。さらに、各生薬の薬理学的機序・薬物動態・相互作用についても、現代薬学の観点から掘り下げていきます。

風邪のひきはじめは「48時間」が勝負

風邪はウイルス感染症です。感染初期はウイルスがまだ上気道局所にとどまっており、全身の免疫応答が本格化する前のこの段階で「発汗解表(はっかんげひょう)」——汗をかかせて体表の邪を追い出す——という漢方の戦略が最も効果を発揮します。

漢方医学では、この初期段階を『傷寒論』の用語で「太陽病(たいようびょう)」と呼びます。

  • 体表(太陽の経絡)に邪気がある段階
  • 悪寒、発熱、頭痛、項のこわばりが特徴
  • 発症からおおむね1〜2日以内
  • この時期を逃すと邪が体内に深く入り、別の処方(柴胡剤など)が必要になる

「ゾクッとしたら、その日のうちに」が漢方風邪薬の鉄則です。発症3日目以降に葛根湯を飲んでも効果は限定的というのは、現場感覚としても一致するところです。

現代医学的な解釈:なぜ「初期48時間」なのか

上気道ウイルス感染において、ウイルスの鼻咽腔での増殖ピークは感染後約24〜72時間とされています。この時期は局所の炎症反応(サイトカイン産生、血管透過性亢進)が活発化しており、体表への血流が増大しています。漢方の発汗解表は、この段階で発汗により体表の血流をさらに促進し、免疫細胞の動員と熱産生を高める効果があると考えられています。麻黄のエフェドリンは気管支拡張・交感神経刺激による発汗促進、葛根のプエラリンはイソフラボン類として末梢血管拡張作用を持つことが薬理学的に確認されており、これら生薬の相乗作用が「発汗解表」の実体と考えられます。

一方、発症から72時間以上が経過すると、ウイルスは細気管支・肺実質へ波及し始め、全身性の炎症応答(インターフェロン産生の本格化)へと移行します。この段階では太陽病の処方より、少陽病に対応する柴胡剤(小柴胡湯など)や、肺熱を清する処方が適合しやすくなります。

証で選ぶ:実証/虚証・寒/熱の2軸

風邪の漢方を選ぶ最大の分かれ道が、次の2つの軸です。

体力の軸:実証 vs 虚証

  • 実証:体力がしっかりあり、発熱・悪寒も力強い。汗が出にくい。脈に力がある
  • 虚証:体力が弱く、汗をかきやすい。悪寒はあるがぐったり感が強い。脈が弱い

病邪の軸:寒邪 vs 熱邪

  • 寒邪:ゾクゾクする悪寒が前面に出る。透明な鼻水、薄い痰。冬に多い
  • 熱邪:のどの痛みと発熱が前面に出る。口が渇く。黄色い鼻水・痰。春や夏に多い

この組み合わせで、おおまかな処方の方向性が決まります。

体力\病邪 寒邪(悪寒主体) 熱邪(咽痛主体)
実証(体力あり) 葛根湯/麻黄湯 銀翘散
虚証(体力なし) 桂枝湯 銀翘散(少量)
鼻水・くしゃみ主体 小青竜湯

証の判定に使う「四診」の要点

薬局やドラッグストアでのセルフチェックでは、特に以下の点が重要です。

チェック項目 実証寒証(葛根湯など) 虚証寒証(桂枝湯) 熱証(銀翘散)
悪寒の強さ 強い、ゾクゾク 穏やか 軽度または熱感優位
発汗 なし じっとりあり なし〜軽度
のどの状態 痛みは軽度 痛みは軽度 強い痛み、発赤
鼻汁の性状 水様〜無色 水様〜無色 黄色、粘稠
口渇 なし〜軽度 なし〜軽度 あり(冷水を欲する)
体格・体力 普通〜がっしり 細身、虚弱 体力を問わない
脈(切診) 浮・緊・力あり 浮・緩・弱い 浮・数

葛根湯(かっこんとう)——最もメジャーな実証寒証の処方

出典:『傷寒論』太陽病篇

構成生薬

葛根(かっこん)・麻黄(まおう)・桂枝(けいし)・芍薬(しゃくやく)・甘草(かんぞう)・生姜(しょうきょう)・大棗(たいそう)の7味。

各生薬の薬理学的役割

生薬 主要成分 薬理作用
葛根 プエラリン、ダイジン(イソフラボン類) 末梢血管拡張、解熱、抗炎症、筋弛緩
麻黄 エフェドリン、プソイドエフェドリン 交感神経刺激、気管支拡張、発汗促進
桂枝 シンナムアルデヒド 末梢血流増加、解熱、抗炎症
芍薬 ペオニフロリン 平滑筋弛緩(麻黄の過剰興奮を緩和)、鎮痛
甘草 グリチルリチン 抗炎症、免疫調整、他生薬の調和
生姜 ジンゲロール、ショウガオール 発汗促進、制吐、免疫調整
大棗 ポリサッカライド、フラボノイド 栄養補給、胃腸保護、緊張緩和

特に注目すべきは葛根と芍薬の組み合わせです。葛根は骨格筋の血流を増加させて「項背強急」——頸部・背部筋の緊張と痙攣——を緩解する作用があり、肩こりを伴う風邪に応用される薬理学的根拠がここにあります。芍薬は麻黄のエフェドリンによる過度の交感神経刺激(血圧上昇、動悸)を芍薬のペオニフロリンが和らげるという、いわば「ブレーキ役」を担います。

適応の目安

  • 実証で寒証
  • ゾクゾクする悪寒
  • 項(うなじ)から背中にかけてのこわばり、肩こり感
  • 発熱はあってもなくてもよい
  • 汗が出ていない(汗が出てしまっている人には不向き)
  • 発症1〜2日以内

葛根湯の最大の特徴は「項背強急(こうはいきょうきゅう)」——うなじから背中のこわばりです。「肩がこって風邪っぽい」という訴えは葛根湯のサインの一つで、肩こり単独にも応用されます。

使い方のコツ

  • 食前または食間に、お湯に溶かして温服
  • 服用後は布団に入って軽く汗ばむまで休む
  • 1〜2回分服用しても変化がなければ、証が違う可能性を考える

葛根湯の科学的根拠:エビデンスの現状

日本東洋医学会や国内研究グループが行ったランダム化比較試験(RCT)では、葛根湯が風邪初期の症状スコア改善において有意な効果を示した報告があります。ただし、試験規模・盲検化の方法にばらつきがあり、現時点では「有望な結果はあるものの、質の高いエビデンスは限られる」というのが正確な評価です。作用機序研究については、プエラリンの抗炎症作用(COX-2抑制、TNF-α産生抑制)やエフェドリンの気管支拡張作用については in vitro・動物実験レベルでの知見が蓄積されています。

麻黄湯(まおうとう)——強実証・高熱・節々の痛みに

構成生薬

麻黄・桂枝・杏仁(きょうにん)・甘草の4味。麻黄の含有量が葛根湯より多く、より強力な発汗作用を持ちます。

葛根湯との生薬構成比較

生薬 葛根湯(標準配合量) 麻黄湯(標準配合量)
麻黄 3g 5g
桂枝 2g 4g
杏仁 5g
葛根 8g
芍薬 3g
甘草 2g 1.5g
生姜 1g
大棗 3g

麻黄湯で特徴的なのは杏仁(アンズ種子)の配合です。杏仁に含まれるアミグダリンは体内でβ-グルコシダーゼにより加水分解され、鎮咳・去痰作用を発揮するほか、平滑筋弛緩作用が気管支収縮を緩和します。麻黄の気管支拡張(β2刺激)と杏仁の平滑筋弛緩が相乗的に働き、喘鳴や咳を伴う強い感冒にも対応します。

適応の目安

  • 強実証(体力充実)で寒証
  • ゾクゾクを通り越して震えるほどの悪寒戦慄
  • 39度前後の高熱
  • 全身の節々の痛み、筋肉痛
  • 汗なし、頭痛
  • 発症ごく初期

インフルエンザ初期に麻黄湯が使われることがあり、抗インフルエンザ薬と同等の解熱期間短縮を示した臨床試験の報告もあります(あくまで一報告であり、適応判断は医師に)。

注意

麻黄湯は作用が強い分、虚証・高齢者・心疾患のある方には使えません。「ぐったりして寒気がする」という見た目だけで判断せず、脈や体格、既往歴を含めて選ぶ必要があります。特に麻黄含有量が多いため、後述するエフェドリン関連の副作用リスクは葛根湯より高くなります。自己判断でのOTC使用には慎重な判断が求められます。

桂枝湯(けいしとう)——虚証で汗をかいている風邪に

構成生薬

桂枝・芍薬・甘草・生姜・大棗の5味。麻黄を含まないのが最大のポイントです。

適応の目安

  • 虚証(体力低下、虚弱者、高齢者、産後など)
  • 悪寒と発熱はあるが、すでに汗がじっとり出ている
  • 脈が弱い
  • 「葛根湯を飲んだら汗が出すぎてぐったりした」タイプの人

『傷寒論』では桂枝湯は「衆方の祖」とも呼ばれ、最も基本的な処方とされています。麻黄を含まないので動悸や血圧への影響が少なく、虚弱な人にも使いやすいのが特徴です。

桂枝湯の薬理学的特徴

桂枝湯は「発汗解表」ではなく、「調和営衛(えいえいちょうわ)」——つまり、過剰な発汗を収め、自律神経バランスを調整するという双方向性の作用を持ちます。現代薬理学的には、桂皮のシンナムアルデヒドが体温調節中枢(視床下部)に作用して適度な発汗を誘導しつつ、芍薬のペオニフロリンが過剰な交感神経活動を抑制する、という拮抗的・協調的な作用が考えられています。「すでに汗が出ている状態でさらに発汗させる」麻黄含有処方との相違がここにあります。

葛根湯と桂枝湯の見分け方

項目 葛根湯(実証) 桂枝湯(虚証)
体力 普通〜充実 低下、虚弱
出ていない じっとり出ている
悪寒 強い、項背のこわばりあり あるが穏やか
浮で力あり 浮で弱い
麻黄含有 あり なし
向く対象 健康な成人 高齢者、虚弱者、産後、回復期

小青竜湯(しょうせいりゅうとう)——水っぽい鼻水・くしゃみに

構成生薬

麻黄・桂枝・芍薬・半夏(はんげ)・細辛(さいしん)・五味子(ごみし)・乾姜(かんきょう)・甘草の8味。

各生薬の薬理学的役割

生薬 主要成分 薬理作用
麻黄 エフェドリン類 気管支拡張、交感神経刺激、抗アレルギー
細辛 メチルユゲノール、β-アサロン 気管支拡張、局所麻酔様作用、抗アレルギー
五味子 ゴミシン類(リグナン) 抗ヒスタミン作用、鎮咳、免疫調整
乾姜 ショウガオール(生姜より高含量) 温化水飲(水様分泌抑制)、制吐
半夏 ホモゲンチジン酸 粘液分泌抑制、鎮咳・去痰

五味子のゴミシン類は現代研究で抗ヒスタミン作用(H1受容体拮抗)が示されており、アレルギー性鼻炎の症状抑制に寄与すると考えられています。乾姜の「温化水飲」——水様性の過剰分泌を温めて乾燥させる——という漢方的概念は、現代薬理学的には乾姜のショウガオールによる粘液腺分泌抑制・浸透圧調整として解釈できます。

適応の目安

  • 寒証で水様性(透明・サラサラ)の鼻汁
  • くしゃみ連発
  • 薄い痰、咳
  • アレルギー性鼻炎、花粉症の急性増悪にも応用される

「鼻水が滝のように出る」「冷たい空気で鼻症状が悪化する」タイプに合います。逆に黄色いドロッとした鼻汁は熱証傾向で、小青竜湯の適応ではありません。

麻黄を含むため、後述の副作用注意は葛根湯・麻黄湯と共通です。また、細辛に含まれるアリストロキア酸類縁物質(サフロール等)については、長期大量使用での腎毒性が動物実験で示されており、通常の短期使用では問題ないとされていますが、長期連用は避けるべきです。

銀翘散(ぎんぎょうさん)——熱証の咽痛・発熱に

構成生薬

金銀花(きんぎんか)・連翹(れんぎょう)・牛蒡子(ごぼうし)・桔梗(ききょう)・薄荷(はっか)・淡豆豉(たんとうし)・荊芥穂(けいがいすい)・淡竹葉(たんちくよう)・甘草・芦根(ろこん)など。

出典と位置づけ

『温病条弁(うんびょうじょうべん)』に収載される、清代の温病学派の代表処方。傷寒論系(葛根湯など)が「寒邪」を扱うのに対し、温病学派は「熱邪」「温邪」を扱います。

各生薬の薬理学的役割

生薬 主要成分 薬理作用
金銀花 クロロゲン酸、ルテオリン 抗ウイルス、抗菌、抗炎症(NF-κB抑制)
連翹 フォルシチン、コネチリゲノール 抗ウイルス(エンベロープ障害)、抗炎症
牛蒡子 アルクチイン、アルクチゲニン 抗炎症、咽頭粘膜保護、解毒
桔梗 サポニン(プラチコジン類) 去痰、気道粘液溶解、抗炎症
薄荷 メントール、メントン 清涼(局所冷感)、抗炎症、気道拡張

特に金銀花のクロロゲン酸と連翹のフォルシチンについては、インフルエンザウイルス・コロナウイルスに対する抗ウイルス活性が in vitro 試験で示されており、温病治療薬としての銀翘散が「熱性疾患」に使われてきた経験的知識と一致する成分プロファイルを持ちます。

適応の目安

  • 熱証
  • のどの痛みが前面に出る
  • 発熱、口渇
  • 黄色い鼻汁・痰
  • 春〜夏の風邪、扁桃炎初期、夏風邪

「ゾクゾクよりも、のどがイガイガ・ヒリヒリ」「冷たい飲み物が欲しい」という訴えは銀翘散のサインです。

入手の注意

銀翘散は日本では医療用漢方製剤として保険収載されておらず、一部のOTCや薬局製剤、海外輸入品(中国・台湾製)として流通しています。個人輸入の場合は品質管理や成分表示の確認に注意が必要で、信頼できる薬局・漢方専門医を経由するのが無難です。特に台湾・中国製品には、農薬残留・重金属汚染・成分含量のばらつきが懸念されることがあります。日本国内での入手に際しては、漢方専門薬局または漢方専門医への相談を強く推奨します。

風邪初期処方の比較表

処方 主訴 麻黄 甘草
葛根湯 実・寒 悪寒+項背こわばり あり あり なし
麻黄湯 強実・寒 悪寒戦慄+高熱+体痛 多い あり なし
桂枝湯 虚・寒 悪寒+汗あり なし あり あり
小青竜湯 寒(水滞) 水様鼻汁・くしゃみ あり あり 問わず
銀翘散 咽痛+発熱+口渇 なし あり 問わず

麻黄と甘草——必ず知っておくべき副作用

漢方は「自然由来だから安全」という誤解がいまだに根強いですが、上記5処方には現代医学的に注意すべき成分が含まれています。

麻黄(マオウ)の薬理と副作用機序

主成分はエフェドリン類アルカロイド(エフェドリン、プソイドエフェドリン、ノルエフェドリンなど)。これらはα1・β1・β2アドレナリン受容体を刺激するとともに、シナプス前終末からのノルアドレナリン放出を促進します(間接的アドレナリン作動薬)。この多面的な交感神経刺激が以下のリスクを生みます。

  • 動悸、頻脈(β1受容体刺激による心拍数増加)
  • 血圧上昇(α1受容体刺激による末梢血管収縮)
  • 不眠、興奮(中枢神経系のカテコラミン増加)
  • 排尿障害(α1受容体刺激による尿道括約筋収縮→前立腺肥大の悪化)
  • 発汗過多による脱水(高齢者で特に注意)

特に注意が必要な人:

  • 心疾患、不整脈のある方
  • 高血圧、甲状腺機能亢進症の方
  • 高齢者(脱水・心血管イベントリスク)
  • 前立腺肥大、緑内障のある方
  • カテコラミン製剤、MAO阻害薬を服用中の方

薬物相互作用:麻黄含有処方が絡む主な組み合わせ

併用薬 相互作用の内容 対応
MAO阻害薬(セレギリンなど) エフェドリンの代謝阻害→血圧クリーゼ 併用禁忌
テオフィリン 中枢・心臓毒性が相加的に増強 原則避ける
カテコラミン系薬 血圧・心拍への過剰刺激 原則避ける
エフェドリン含有OTC感冒薬 麻黄のエフェドリンと重複投与 避ける
利尿薬 電解質・脱水リスク(甘草との相乗も) 慎重に
ジゴキシン 低カリウム血症(甘草による)がジゴキシン毒性を増強 注意

葛根湯・麻黄湯・小青竜湯はいずれも麻黄を含みます。桂枝湯と銀翘散は麻黄を含まないので、これらの懸念がある方の選択肢になり得ます。

甘草(カンゾウ)の偽アルドステロン症

主成分はグリチルリチン。腸管内でグリチルレチン酸に変換された後、11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素2型(11β-HSD2)を阻害します。この酵素は腎尿細管でコルチゾールをコルチゾンに不活化する役割を担っており、阻害されるとコルチゾールが過剰に蓄積してミネラルコルチコイド受容体を刺激——結果として低カリウム血症・浮腫・高血圧・ミオパチーが起きます(偽アルドステロン症)。

  • 風邪の数日服用ではリスクは低い
  • ただし他の漢方(芍薬甘草湯など)や甘草含有食品(甘味料)と併用する際は累積に注意
  • 利尿薬使用中の方は特に注意
  • 血清カリウム値の定期確認が望ましい場合もある

詳しい副作用の話は[[daily-kampo-side-effects-truth]]も参照してください。

服用法とセルフケアのポイント

飲み方

  • 食前または食間(食事の30分前または食後2時間
  • お湯に溶かして温かいうちに服用
  • 服用後は厚着または布団で温まり、軽く汗ばむ程度を目指す
  • 大汗をかかせるのはNG(消耗する)

飲むタイミング

  • ゾクッとした最初のサインで即服用
  • 1日3回が基本だが、初日は2〜3時間おきに2回続けて服用する流派もある(医師指示下で)
  • 24時間以内に効果の手応えがなければ、証が違う可能性を考える

OTC製品の選び方:剤形と含量の確認

市販の葛根湯・麻黄湯・桂枝湯・小青竜湯は、エキス顆粒・錠剤・シロップなど複数の剤形で販売されています。製品によってエキス量・生薬配合量が異なるため、必ず添付文書で麻黄の含有量を確認してください。特に複数の漢方OTCを同時に服用する場合、麻黄・甘草の重複摂取になりやすく注意が必要です。

温服の理由:薬物動態への影響

葛根湯等を「お湯に溶かして温かく飲む」ことには、薬理学的な意義があります。温液として服用することで胃腸の血流が増加し、エキス成分の吸収が促進されます。また、服用直後の温熱刺激が消化管迷走神経を介して発汗中枢に伝わり、「発汗解表」の引き金として機能するという考え方もあります。冷たい水で飲む場合に比べ、温服のほうが体感的な効果発現が早い傾向があるという現場経験は、この薬物動態的背景と整合しています。

西洋薬との併用

  • アセトアミノフェンやNSAIDsとの併用:基本的に問題ない。漢方は「発汗解表」、解熱鎮痛薬は「症状抑制」と作用方向が異なり相補的に働く
  • ただし麻黄含有処方とエフェドリン系成分を含む総合感冒薬の併用は重複投与になるので避ける
  • 抗ヒスタミン薬や鎮咳薬との併用も成分重複に注意
  • イブプロフェン等のNSAIDsは葛根のプエラリンと競合的に血漿タンパク結合する可能性が理論上あるが、臨床的に問題になることは稀とされている

妊婦・小児・高齢者

妊婦

麻黄湯・葛根湯・小青竜湯(麻黄含有)は原則医師相談。エフェドリンには子宮収縮促進作用、胎盤血流変化の可能性が動物実験レベルで報告されています。桂枝湯系は比較的安全とされますが、桂皮のシンナムアルデヒドには子宮刺激の可能性を示す報告もあり、自己判断は避けてください。銀翘散の薄荷(メントール)は大量で催奇形性の懸念があるとする見解もあります。妊婦には特に「安全な漢方」はないという認識で、必ず産婦人科医・薬剤師に相談してください。

小児

エキス製剤の用量は年齢・体重に応じて減量します。目安として、15歳未満は成人量の1/2〜2/3、7歳未満は1/3が一般的な指標ですが、製品の添付文書指示に従うことが最優先です。麻黄含有処方は小児の心血管系への影響が成人より顕著に出ることがあり、慎重な判断が必要です。

高齢者

麻黄の心血管リスク(血圧上昇、不整脈)と甘草の偽アルドステロン症リスクが高まります。特に複数の薬剤を服用している高齢者では相互作用も複雑になるため、少量から開始し、短期間使用を基本とします。腎機能低下がある場合、グリチルレチン酸(甘草代謝物)の蓄積も懸念されます。

こんなときは漢方に頼らず受診を

風邪と思っても、別の重大疾患が隠れていることがあります。次のサインがあれば医療機関へ。

  • 39度以上の高熱が3日以上続く
  • 呼吸が苦しい、息切れがひどい
  • 強い頭痛、嘔吐、意識のもうろう(髄膜炎・脳出血の可能性)
  • 胸痛
  • 黄色〜緑色の膿性痰が大量、片側胸痛(細菌性肺炎の可能性)
  • のどの片側が極端に腫れて飲み込めない(扁桃周囲膿瘍)
  • 数週間続く咳、血痰、体重減少(結核・悪性疾患の鑑別)
  • 高齢者、免疫低下者、基礎疾患のある方の発熱

漢方で「風邪が長引いている」つもりが、実は細菌感染や非感染性疾患だった、というケースは決してまれではありません。また、漢方服用後に症状が一時改善した後に再度悪化する場合や、新たな症状(黄色の膿性鼻汁・耳痛・副鼻腔痛等)が出現した場合は、細菌性副鼻腔炎・中耳炎への移行を疑い受診してください。

実践的なセルフチェック:どの処方が自分に向いているか

以下のフローで、ひとつの目安として確認してください(確定的な診断ではありません)。

START:風邪のひきはじめの症状は?
│
├─ のどの痛みが一番つらい+口が渇く → 【銀翘散】
│
├─ 鼻水がサラサラ・くしゃみが多い → 【小青竜湯】
│
└─ 悪寒・ゾクゾクが主体
    │
    ├─ すでに汗が出ている、体力が低い → 【桂枝湯】
    │
    └─ 汗が出ていない
        │
        ├─ 体力充実+高熱+全身の節々が痛い → 【麻黄湯】
        │
        └─ 体力普通+項背こわばり・肩こりあり → 【葛根湯】

このフローはあくまで「大まかな目安」です。証の正確な判定には四診(望診・聞診・問診・切診)が必要であり、複数の証が混在するケースも多くあります。判断に迷う場合は薬剤師や漢方専門医に相談することを強く推奨します。

まとめ

  • 風邪の漢方は発症48時間以内が勝負
  • 「葛根湯一択」ではなく、実証/虚証・寒/熱で選び分ける
  • 葛根湯=実証寒証+項背こわばり、麻黄湯=強実証+高熱体痛、桂枝湯=虚証で汗あり
  • 小青竜湯=水様鼻汁、銀翘散=熱証の咽痛
  • 麻黄含有処方は心疾患・高齢者注意、甘草は累積に注意
  • 各生薬には現代薬理学的に解明された作用機序があり、「なんとなく効く」ではなく根拠のある選択が可能
  • 自己判断が難しいときは薬剤師・漢方医に相談

体質判定の詳しい考え方は[[kampo-pattern-jitsu-kyo-cold-heat]]、のどの痛みが主症状なら[[kampo-sore-throat-formulas]]、咳が長引くケースは[[kampo-cough-formulas]]もあわせてお読みください。

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を行うものではありません。漢方薬の選択は本来、四診(望診・聞診・問診・切診)に基づく証の判定が必要であり、自己判断での長期使用は推奨されません。妊娠中・授乳中の方、小児、高齢者、基礎疾患をお持ちの方、他の医薬品を服用中の方は、使用前に必ず医師・薬剤師にご相談ください。症状が改善しない、または悪化する場合はすみやかに医療機関を受診してください。

参考文献

  1. 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 偽アルドステロン症」 https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1j21.pdf
  2. 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 間質性肺炎(漢方製剤)」 https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1j05.pdf
  3. PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)「葛根湯エキス顆粒 添付文書」 https://www.pmda.go.jp/
  4. 日本東洋医学会編『入門漢方医学』南江堂
  5. 大塚敬節, 矢数道明, 清水藤太郎『漢方診療医典』南山堂
  6. 厚生労働省「eJIM(統合医療情報発信サイト)漢方薬」 https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c04/02.html
  7. 『傷寒論』『温病条弁』各種訳注本
  8. 日本東洋医学会「漢方製剤の適正使用のための指針」 https://www.jsom.or.jp/

監修: 薬剤師(博士(薬学))

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