ご質問
海外赴任や長期出張で常用薬が必要ですが、複数ヶ月分を一度に日本から持ち込んだり個人輸入することはできますか?量に上限があると聞きましたが、どのように判断すればよいのでしょうか?また、「薬監証明」という言葉も見かけますが、何なのか教えていただきたいです。
薬剤師からの回答
まず「行き」と「帰り」を分けて考えてください。数量の上限と薬監証明は、どちらも「日本に持ち込む(輸入する)」側のルールです。日本から薬を持って出国することそのものに、日本側の数量制限や事前申請はありません(規制対象は現地の入国ルールです)。
日本に持ち込む量の基準は、厚生労働省の通知で次のように定められています。処方箋医薬品は用法用量からみて1ヶ月分以内、一般用医薬品(OTC)の内用薬は2ヶ月分以内、外用剤と医薬部外品・化粧品は1品目24個以内。 この範囲に収まっていれば、処方薬でも事前の手続きは要りません。
数量の基準(日本へ持ち込む場合)
| 医薬品区分 | 手続きなしで持ち込める量 | 薬監証明 |
|---|---|---|
| 処方箋医薬品(毒薬・劇薬を含む) | 用法用量からみて1ヶ月分以内 | 範囲内なら不要 |
| 一般用医薬品(OTC)の内用薬 | 用法用量からみて2ヶ月分以内 | 範囲内なら不要 |
| 外用剤(処方箋医薬品・毒薬・劇薬に該当しないもの) | 標準サイズで1品目24個以内 | 範囲内なら不要 |
| 医薬部外品・化粧品 | 標準サイズで1品目24個以内 | 範囲内なら不要 |
| 向精神薬 | 施用量の範囲内(品目ごとに携帯量の上限あり) | 許可不要。処方箋の携帯を強く推奨 |
| 麻薬 | 数量とは別に地方厚生局麻薬取締部の事前許可が必要 | — |
| 覚醒剤原料(一部のADHD治療薬など) | 持ち込み不可 | — |
「1ヶ月分」は錠数ではなく日数で判断します。1日3回1錠の薬なら90錠が1ヶ月分、1日1錠なら30錠です。同じ「90錠」でも薬によって1ヶ月分か3ヶ月分かが変わるので、錠数だけを見て判断しないでください。
「薬監証明」とは
薬監証明は、正式には輸入確認証と呼ばれる書類です。上の表の数量を超える医薬品を輸入するときに、地方厚生局(関東信越厚生局・近畿厚生局など、輸入先の空港・港を管轄する厚生局)の薬事監視専門官に「輸入報告書」を提出し、交付を受けます。
- 必要になるケース: 数量の基準を超えて輸入するとき
- 申請先: 地方厚生局の薬事監視専門官(PMDAではありません。PMDAは承認審査と副作用救済を行う機関で、個人輸入の窓口業務は担っていません)
- 主な提出書類: 輸入報告書、医師の処方箋または指示書、製品の説明資料、パスポートのコピー
- 所要期間: 書類が揃ってから数日〜数週間
麻薬・向精神薬・覚醒剤原料は別の法律
これらは薬機法ではなく麻薬及び向精神薬取締法・覚醒剤取締法で扱われ、数量基準とは別建てのルールになります。
| 区分 | 具体例 | 日本への持ち込み |
|---|---|---|
| 麻薬 | モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、一部のコデイン製剤 | 地方厚生局麻薬取締部の事前許可が必要(申請は渡航の2週間前まで) |
| 向精神薬 | ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、一部の鎮痛薬 | 許可は不要だが、品目ごとに携帯できる量の上限がある |
| 覚醒剤原料 | メタンフェタミン、アンフェタミンを含む製剤(一部のADHD治療薬) | 持ち込み不可。医療目的でも例外は限定的 |
「向精神薬は一切持ち込めない」という説明も見かけますが、これも誤りです。ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を自分の治療のために携帯するのは、上限の範囲内なら許可なしで可能です。処方箋の写しか、薬剤名・用法用量が書かれた英文の書類を一緒に持っておいてください。
実務的な手順
1. 渡航1〜2ヶ月前
- 主治医に相談し、英文の処方箋または診療情報提供書(成分名・用法用量・診断名を記載)を依頼する
- 渡航先の入国ルールを確認する(ここが本番。日本側ではなく現地側の規制が問題になります)
- 帰国時に1ヶ月分を超える量を持ち帰る見込みがあれば、管轄の地方厚生局に相談する
2. 持ち込み・持ち出し時
- 薬は元の箱・薬局のラベルごと、手荷物に入れる
- 英文の処方箋または診療情報提供書を携帯する
- 液剤・注射薬は機内持ち込み制限の対象になるため、証明書類を一緒に提示できるようにしておく
3. 長期滞在での薬の確保
- 日本から持参するのは基準の範囲内にとどめる
- 現地の医療機関で診察を受け、同じ成分の現地承認薬に切り替える方が法的にも医学的にも安定する
- 大使館の医療情報ページ、駐在員向けの医療相談窓口を事前に確認しておく
渡航先側の規制に注意
日本側の手続きよりも、実際にトラブルになりやすいのは渡航先の入国規制です。
- シンガポール: 一部の向精神薬・規制成分は入国前の許可申請(Health Sciences Authority)が必要
- UAE: 規制成分リストが広く、コデインを含む鎮咳薬などが対象になる。渡航前の事前承認が求められる場合がある
- タイ: 向精神薬は厳格。処方箋の携帯が実質必須
- 米国: FDAの規則に従う。処方薬は元の容器+処方箋の携帯が原則
いずれも「日本で薬監証明を取ったから大丈夫」ではありません。日本の書類は日本の入国審査のためのもので、渡航先の許可は渡航先の当局に申請します。
まとめ
日本へ持ち込む量の基準は、処方箋医薬品が1ヶ月分以内、OTCの内用薬が2ヶ月分以内、外用剤・医薬部外品が1品目24個以内。この範囲内なら処方薬でも薬監証明(輸入確認証)は不要で、超える場合の申請先はPMDAではなく地方厚生局です。麻薬は事前許可制、覚醒剤原料は持ち込み不可。長期滞在では現地での処方への切り替えを前提に、主治医から英文の診療情報提供書をもらっておくのが最も確実です。
本回答は一般的な情報提供であり、個別の医学的判断は主治医または薬剤師にご相談ください。数量や手続きの要否は輸入時点の法令・通知に従って判断されるため、判断に迷う場合は管轄の地方厚生局にお問い合わせください。